韓国発のデジタル漫画「ウェブトゥーン」が、スマートフォンで縦にスクロールしながら読む形式で世界中の読者を魅了し続けている。この市場は急速に拡大しており、特に新型コロナウイルス禍においてその成長が加速した。こうした背景の中、人工知能(AI)の活用がウェブトゥーン制作の現場に革命をもたらしている。AI技術によって作画が効率化され、作家はより創造的な作業に集中できるようになっているのだ。
ウェブトゥーンとは?
「ウェブトゥーン」とは、「web(ウェブ)」と「cartoon(カートゥーン)」を組み合わせた造語で、韓国のネイバー社が2000年代にサービスを開始したのが始まりだ。日本でもスマホ向けアプリ「LINEマンガ」や「ピッコマ」などで配信され、映画化やドラマ化も展開されている。
AIがもたらす効率化
ソウルの新興企業「ライオンロケット」は、生成AIを活用してウェブトゥーン制作を支援するシステムを開発した。このシステムは、10枚程度の絵を基に作品の画風をAIに学習させることで、簡単な操作でポーズや衣装を調整しながら完成形に近い人物の絵を作成できる。これにより、従来の手作業に比べて作業時間を劇的に短縮することが可能となった。
漫画制作には物語の構想から下絵、線画、彩色など多くの工程が必要だが、ウェブトゥーンの場合はこれらの工程が分業化されている。それでも、一般的な連載の1回分を仕上げるのに約200時間が必要とされるが、生成AIを使えばその時間を10分の1以下に短縮できる。これにより、週1回の連載が一般的であったウェブトゥーンが、理論上は毎日連載も可能となる。
作家の創造性を支援
ライオンロケットの鄭勝煥(チョン・スンファン)代表は、「非効率な手作業を減らせば、作家はストーリーを考えることに集中できる。世界的にウェブトゥーンの需要が増える中、読者が早く次のストーリーに出合える」とAI活用の意義を語る。同社は現在、韓国や日本の制作会社20社と契約し、AIシステムを使いながら作品を制作している。著作権は顧客にあり、契約終了後に関連データを破棄することで、著作権の問題も解消している。
ウェブトゥーン市場の未来
市場調査会社によると、世界のウェブトゥーン市場は2022年の39億ドルから2032年には676億ドルに拡大すると予測されている。韓国政府によると、世界の漫画アプリの売り上げ上位5位までのうち4社を韓国企業が占めており、特にカカオとネイバーの2系列が有力だ。この優位性を生かし、韓国政府は自国企業を「漫画・ウェブトゥーン界のネットフリックス(米国の動画配信大手)」にすることを掲げ、海外進出を積極的に支援している。
AIによる費用対効果
生成AIの活用により、ウェブトゥーン制作の費用対効果は飛躍的に向上している。従来の手作業では莫大な時間と人手が必要であり、その分コストもかさんでいた。しかし、AIを導入することで作業効率が劇的に改善され、コスト削減が実現している。また、作業時間の短縮により、コンテンツのリリース頻度も増加し、収益機会が拡大している。
一般ユーザーの利用可能性
AI技術の進化により、一般ユーザーでも簡単にウェブトゥーンを制作できる環境が整いつつある。例えば、ライオンロケットのシステムを使用すれば、専門的な知識やスキルがなくても、短時間で高品質なキャラクターを作成することが可能だ。これにより、ウェブトゥーン制作がより身近なものとなり、多くのクリエイターが新たなコンテンツを発表することが期待される。
競合他社の動向
AI技術を活用したウェブトゥーン制作支援システムは、他の競合他社も注目している分野だ。例えば、日本の「ピッコマ」や中国の「騰訊漫画」もAIを導入し、制作効率の向上を図っている。こうした競争が市場全体の技術進化を促進し、さらに多様なコンテンツが提供されることが期待される。
新たなビジネスの可能性
AI技術の進化により、ウェブトゥーン市場には新たなビジネスチャンスが生まれている。例えば、AIを活用したキャラクターデザインやシナリオ作成のサービス提供、また、個人クリエイター向けのAI支援ツールの開発などが考えられる。これにより、従来の出版社や制作会社だけでなく、新たなプレイヤーが市場に参入し、多様なビジネスモデルが生まれることが予想される。
まとめ
AI技術の進化により、ウェブトゥーン制作は大きな変革期を迎えている。効率化された制作プロセスにより、作家は創造性を最大限に発揮でき、読者はより多くのコンテンツを楽しむことができる。市場は急速に拡大しており、新たなビジネスチャンスも広がっている。今後もAI技術の進化に伴い、ウェブトゥーン市場はさらなる成長を遂げるだろう。
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